6.AEDの装着
上記5の手順を踏んでも、まだ意識が無く呼吸もしていない様で、他の体の動きも無いようであれば、心臓が止まっている可能性が高いので、AEDを“装着”します。心臓が止まっているかどうかは普通判断できないと思われますが、万一動いていたとしても、それはそれでAEDがそう“診断”して、その際は電気ショックは与えない様になっているので心配無用です。AEDはそういう“診断”もしてくれるので便利です。可能であれば、なるべく、倒れてから3分以内に、このAEDを使う手順6までスムーズに進行するとベストだそうです。だから、何もせずに救急車を待っているだけでは、全く無駄に10分以上が経過してしまう事になり、心停止の場合、電気ショックが1分遅れる毎に10%、救命率が減少すると言われているそうですし、何せ、倒れてから10分間が生死の分かれ目とも言われています。(前記の計算によれば、10分経てば、10×10%=100%救命率は下がる事になります。)なので、大昔の様に、ただ単に救急車を呼んで待っているだけの時代ではないと思った方が良いです。(但し、確かに何かしたことにより、かえって悪くするような場合も無きにしも非ずなので、本当に恐ろしいですね。)
さて、AEDは音声で自動案内してくれるので、その指示に従うだけで何の苦労もありません。多少細かい話になりますが、AEDは全く動かなくなってしまった心臓に対しては役に立たなく、ともかくも心室細動(不整脈)による心臓の不具合で、放置すると死に至るという場合の心臓を、電気ショックで正常な拍動に回復してくれる訳です。
以上の様な手順を施しながら救急車を待ちましょう。気が焦っているから、救急車はとても待ち遠しく感じられますし、もし手際よく進んで、倒れてから3分以内にAEDを実行できたのならば、まだ5分以上、救急車の到着までかかると思われますので、かなり長く辛抱強い時間が続きます。一般的に、5.の胸骨圧迫の手順で、30回~50回圧迫したら、2回人工呼吸のサイクルを繰り返すと言われていますが、人工呼吸は大変で、要領が判らないと思いますから、省略しても良いそうです。AEDの装着までの時間、なるべく胸骨圧迫を絶やさないようにする事が留意点です。一旦、AEDを装着すると、必要に応じてAEDが電気ショックを与える様に作動する(この時は、感電しない様に、倒れている人に触れない様に離れる事が肝要)し、必要に応じて、『胸骨圧迫を続けて下さい』などとAEDが指示してくれるので、そのように再開します。(この時は、いちいち電極パッドを剥がしてはいけません。大体、電極パッドは胸骨圧迫の時に強く押す部位には貼ってないので、胸骨圧迫の際に電極パッドが邪魔になる事はありません。)
家族の発作、交通事故など、ダンスのレッスンやパーティ、競技会以外にも恐ろしい事に遭遇する可能性はたくさんありますが、看護師さんなどが居合わせてテキパキ指示して下さる事もあるので、これを読んで心構えができたからと言って、試そうと思いあまり出しゃばっても何ですが、筆者も、団体レッスンで、数年前に生徒さんの壮絶な死に遭遇して大ショックを受けた経験があります。その生徒さんは踊っている最中に転倒し(正確に言えば、心停止したので転倒)、そのために、ぶつけた頭部からも少量出血し、そして、その場所に居合わせた生徒さんの看護師の指示を受けて、筆者自身も胸骨圧迫を必死にしたのですが、救急隊が到着するまで血を吐いたりとかして意識は無く、搬送後、機械の力を借り翌朝まで(倒れたのは、午後8時半頃)何とか生きてはいたのですが、その後亡くなられました。そういう経過から、その後AEDを勉強したり、一応の心構えもしている訳で、皆様にも知識を伝えようと思いこれを記しています。いつか暇ができたらネットで勉強しようなどと思っていても、なかなか自分でそういう時間は作れずに月日は経過しますので、こういう風にダンス会報で、筆者が書いた記事を読めば、それでかなりの手間が省けて勉強になると自負しております。
以上簡単にAEDや心肺蘇生について書いてきましたが、私達ダンスの先生に限って言えば、生徒さんや(先生自体も)高齢化して来ていますので、やはり、レッスン中に倒れる、競技会で踊っている時に倒れる、ダンスパーティで倒れるというような場面にかなりの確率で遭遇しそうです。なので、そういう事を一応頭の片隅に想定しておきましょう。先生方は、教室入会者に、住所や氏名、連絡先や、ダンス歴などを書いてもらう、“入会者個票”または“入会者名簿”の様なものを用意されて生徒さんに記入してもらっていると思いますが、この個票に、“緊急連絡先”や、“持病の有無とその病名”などの欄を設けて、漏れなく書いてもらうのが良いと思われます。(一番最後の《図1》参照)そして、まず普通、30人ものスタッフを抱えている自社ビルのある様なスタジオはそうそう見かけませんから、個人経営のダンススタジオに、AEDは置いてないと思いますから、スタジオ近くのどこにAEDが設置されているかを事前に調べておくと良いと思われます。(近くの病院、医院、スーパーマーケット、公民館、役所、大きい会社などにあるでしょう。)それに、これを読まれている愛知県プロ・ダンス・インストラクター協会・会員の方も、かなり高齢であれば、ご自分がそういう心臓病を抱えていらっしゃる人もおみえでしょうから、そういう人は、周囲の人(家族や友人)などに『もし自分が意識不明で倒れたら、こういう風にAEDで救命の努力をしてほしい。』とその手順を教えておくのも重要な事と言えましょう。ただし、生徒さんなどは、逆に正直にこれこれの心臓の持病があるから…等と先生に申告すると、先生も恐ろしくなってレッスンしてくれない事を危惧して、正直に言わない人もあるかもしれませんので、これを読んで色々考えると、高齢の生徒に対してはレッスン自体が怖くなってきますね。
又追記ですが、倒れた人が女性の様な場合、はたして胸骨圧迫やAEDのパッド装着のために、“胸をはだけても良いものか?”という問題があります。これに関しては、今現在の回答としては、柔らかい衣料であれば着用している上から胸骨圧迫をして大丈夫で、ブラなども除去する必要はないとの事です。電極パッドは乳房の部分に貼る訳ではないので、ブラを取る必要もありません。特に女性の上半身を露出させるという事は、セクハラ問題で事後に訴えられた例もあるとの事ですから極力避けて、衣服の上から胸骨圧迫をするべきです。ちなみに、電極パッドを貼る位置は、AEDの容器にイラストで描いてありますから、いちいち勉強して覚える必要はありません。(参考までに《イラスト3》参照)又、倒れた人がお爺ちゃんやお婆ちゃんだった場合、皮膚がしわしわでパッドが貼れるだろうか?とか、胸骨圧迫をした時に肋骨が折れてしまわないか等の生々しい疑問なども浮かんできます。確かに、胸骨圧迫はかなりの強度で、胸が5㎝くらいの浮き沈みをするくらいがメドと言われています。
もちろん倒れた人が全てAEDで助かる訳ではありません。交通事故や、家族の誰かが階段で転倒して意識不明になったり、極端な場合地震等で倒れてくる壁などの一部に挟まれたりしてひどく負傷したり、骨折したり(恐ろしい想像ですが)流血していたりしていれば、AEDや胸骨圧迫をする以前にもうダメなんじゃないだろうか?と思える場面もかなりあると思えますから、AEDが全て大活躍という訳ではないでしょう。また急に人事不省になり転倒したとしても、大動脈解離や動脈瘤破裂などが原因であったなら、心臓とは無関係の部分に異変が起きる訳なので、心臓をどうこうしても何の効果も無い事もあります。
しかし、前述した様にダンスの先生としての遭遇場面を考えれば、割と年輩の生徒さんやダンスをする人が、レッスン中やパーティ等の途中で倒れるという場合がまず想像でき、不整脈による心停止などが第一に考えられるので、AEDの重要性は大きいと思われます。次の様に書くと、慎重過ぎると思われるかもしれませんが、高齢者の生徒さんが多い現状においては、例えば、先生がメダルテストや競技会、ホテルのダンスパーティ等に同行する場合は、一応、教室からの生徒の出場者や参加者の緊急連絡先を書いた一覧表等を携帯するのが理想的とも言えます。
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